中国・四川省 九寨溝

九寨溝国家級風景名勝区に向かう
 昨日は激動の1日であった。中国の多くの方々の助力によって、楽しくエキサイティングな“黄龍の1日”を過ごすことができた。ぐっすりと睡眠をとることができ、今日の九寨沟観光のため、そして明日の成都への長距離・長時間のバスによる移動に備えた体力を回復できた。昨日の若き技術者の根回しのおかげで、朝からの私のスケジュールがセットされていた。昨日、彼に応対したフロントのお嬢さん、実は英語が話せたのだが、「10分後にタクシーが来て、あなたを『九寨溝口旅游バスセンター』に連れていきます。近いので安いです。そこで、タクシーを待たせておいて、明日の『成都』行きのバスチケットを買って下さい。ここから9時間近くかかるので、朝7時半頃出発のバスがお勧めです」。忘れたら困るのでバスの出発時間をメモする。彼女は私の手元を見ながら続ける。「待たせたタクシーに戻って、そこから『九寨溝国家級風景名勝区』に行ってください、OK ?」。完璧な手配と説明であった。「ありがとう、お嬢さん&若き技術者よ」。
 ここ九寨溝から成都までのバスチケットを購入し、タクシーに戻って、「お待たせ」と日本語で言うと、運転手は、「にこっ」。やはり、ホテルを通してタクシーを予約をすると愛想が良い。再び乗車して、『九寨溝』入口で降車、タクシー代を支払う。中に入ると、平日の朝8時なのにお客さんが多い。

入山チケット(70歳以上は無料)や名勝区内を走るバスのチケットを買う
さあ、『観光専用バス』に乗って出かけるぞ

九寨沟へのイントロダクション
 ガイドブックを参考に、九寨溝についておさらいをしたい。九寨溝は四川省最北部にあるアバチベット族チャン族自治州の北東部にある景勝地である。峡谷沿いにチベット族の暮す集落(山寨)が9つあったことから『九寨溝』と名付けられた。
 約720平方キロメートルの広大な景勝地で、3つの渓谷を中心に、原始森林景区(げんししんりんけいく)、日則景区(にっそくけいく)、樹正景区(じゅせいけいく)、宝鏡崖景区(ほうきょうがいけいく)および長海景区(ちょうかいけいく)の五つのエリアに分けられている。
 私は6月に訪ねたが、湖、滝、湿地が点在し、季節によって、春の緑、夏の強烈な光、秋の木の葉の色づき、冬の純白の雪景色等々、想像しただけで心が震え、体が動いてしまう。この美しい、独特の景観は、氷河による浸食、地殻変動、火山活動などの結果であることは容易に想像できるが、「“美しさを感じさせる素材”を土木や地質の観点から一つあげよ」と言われたら、即座に、「石灰」と答えたい。石灰岩質の岷山山脈(びんざんさんみゃく)から流れ出た水の成分(炭酸カルシウム)が沼底に沈殿し、陽光を浴び、その変化に応じて独特の色で回りを染めよう。そして、本ホーメページで何度か登場させた『カルスト地方』の名を戴くクロアチアの世界遺産『プリトヴィツェ湖群国立公園』、また、昨日訪れたここ四川省の『黄龍』の美しさからも想像できよう。

観光開始は樹正景区から
 『九寨溝国家級風景名勝区』はとても広いので、シャトルバス(観光専用バス)で回る。最も北側にある入口から南側に向かって移動することになる。私のような方向音痴らしき人達は、地図を逆さまにして、つまり進行方向である南を上にして広げている。そうすると、谷というか池がY字状に分岐して見えるのである。笑わないでくださいね。
 Y字の根本(出発点)から『樹正景区』に向かって出発したバスは、20分ほどでバス乗場の1つである『老虎海乗車点』に着く。山肌を湖面に移す『老虎海』は、木々や雲などの周辺の自然条件によっては、虎の文様が湖に映る、ということからこの名前がついたという。下流部分に広がる姿は、端正なたたずまいを見せる静かな海子(湖、池)で、心が洗われるような気持になる。
 最初に降りたバス停( 老虎海乗車点)に戻ったところ、1台のバスが止まっている。よく見ると、観光客を移動させる『観光専用バス』ではなく、前面に『WC』と書いた移動式トイレバスだった。通常、この種の観光地に設置されているトイレは固定式であって、トイレが移動するものは初めて見た。後処理を考えても衛生的かつ合理的であり、先進的な発想に感心した。
 静かな『老虎海』の水を受ける『樹正瀑布』は多くの歓声を受ける人気の瀑布である。その豪快な瀑布は男性的で、荒々しい。写真を撮る時、中国人の女性がポーズをとる時間はとても長く、外国人の不平を買うが、ここでは、男性も長い。老虎海から樹正瀑布へと流れた水は、19の海子 が集まる樹正群海へと流れていく。

老虎海バス停留所
老虎海
老虎海
移動式トイレ
樹正瀑布
樹正瀑布

 『火花海』は、海抜2187メートル、水深9メートルの海子である。太陽の光を受けて湖面がきらめく様子が火花が散っているように見えるので、この名前が付けられたそうだ。私の場合は、残念ながら…。天気次第か? 
 ここの『火花海』の瀑布から流れ落ちた水は、『双龍海』に落ちる。中国人の大好きな『龍』であるが、この名称は、透き通る湖の中にあたかも二匹の龍が隠れているように見えることから付けられたそうだ。そう思い込んで見ると、湖水に沈んだ大木が龍の姿に見えてくる。もっとも、「『龍』なるもの、見たことはないですが」。「それを言っちゃ、おしまいですね」。

火花海の説明
魚が泳いでいる
山の姿が映える湖の美しさ
火花海。今日は火花が見えなかった
双龍海
双龍海

長海景区
 Y字の中心(左右の分岐点)にあたる『老虎海乗車点』から観光専用バスに乗車して、東側の長海景区の『長海』で下車。ここから先には進めないので、『長海』を眺める最終ポイントである。海抜が3060メートル、山に沿って湾曲する長さが約8キロメートル、幅が約600メートル、面積が93万平方メートル、そして湖水の最深部が約100メートルぐらいである。海抜、湖面面積、深さ、全てで九寨溝一を誇る。

九寨溝で最も長い海子(湖、池)である長海
長 海
チベット族の衣装を着て記念撮影
逆さまにしたらどう見えるのだろう?だまされる人がいそうだ
長 海
木製歩道が風景にマッチしている

 五彩湖は、海抜2995メートル、面積が5645平方メートル、最深部が6.6メートルと小さな湖で、長海から徒歩ですぐである。ここの売りは、なんと言っても湖水の底にある石が見えるほどの透明感とあくまで透き通った青、クリアブルーである。お楽しみあれ。

五彩池への案内標示
九寨溝の中でも最も鮮やかな五 彩池
五彩池
五彩池
五彩池 にあった『姓名作画』とは?お客の姓名から連想して絵を描いてくれる 。1枚10元、安い

原始森林景区
 長海の観光専用バスの乗換地点からY字の中心に戻り、Y字の西側に向かった。Y字の中心に近い日則景区を飛ばして原始森林景区の終点『芳草海(Grass Lake)』へ一気に移動した。Y字の中心から見ると遠くに位置する原始森林景区から始めて、近くの日則景区を観る作戦である。海抜2910メートルの地点にある3万平方メートルの海子(湖)。芳草海は文字通り草が多く、餌が豊富なのか、小鳥の鳴き声が耳についた。

原始森林景区の芳草海(Grass Lake)
原始森林景区の芳草海
芳草海
芳草海
天鵝海(白鳥の湖)の説明
天鵝海(白鳥の湖)
天鵝海を教えてくれたお助けパーソン達

日則景区
 九寨溝観光に訪れた人々が描くイメージを最も代表する景区である。流れが生み出す青い海子や滝、緑あふれる木々が光を受けて織りなす色彩豊かな景観である。緑あふれる木々は、秋には色づいて異なった様相を見せることであろう。箭竹海(せんちくかい)、パンダ海、五花海など、ストーリィ性を持った景区でもある。
 箭竹海は、海抜2618メートルの地点にある深さ6メートル、広さ17万平方メートルの海子である。ここには大量の箭竹が生い茂ることから、この名前が付けられたのである。『箭竹』と言えば、『パンダ』の好物。お分りですね。『箭竹海瀑布』から流れ込む海子は『パンダ海』である。実際に、以前はこの海子で水を飲む( 箭竹 を食べる)パンダが目撃されたそうだ。

箭竹海瀑布(せんちくかいばくふ)の説明
箭竹海瀑布
ここの箭竹はパンダの好物
パンダ海

 『日則溝景区』で最も人気のある観光地は、孔雀川の最も上流に位置する『五花海』と言っても良いであろう。標高が2472メートル、水深が平均5メートル、総面積が7.68万平方メートルの湖で、沈んでいる倒木などもはっきり見えるほど透明度が高い。マグネシウムや銅などの鉱物を含んだ石灰質が沈殿し、藻が定着していることから、光によって色彩が変わる摩訶不思議な光景を観ることができる。解説書に「九寨溝一絶(九寨溝にしかない)」とあるが、言いえて妙なり。ちょっと気障ですが、『絵画』で言う「太陽光線が当たって色があらわれる」のです。
 遊歩道を20分ほど行くと、「ビューポイント」みたいな小さな展望台があって、湖全体を観ることができる。エメラルドグリーンのグラディーション、思わず口から出た言葉は、「神秘的」という、なぜか英語だった。

海抜2471メートル地点にある深さ5メートルの五花海
最も人気のある場所で、思い思いに楽しんでいる
五花海