中国・四川省 成都市内(1)

青羊宮へ
 地下鉄『通恵門』駅から『青羊宮』へ歩いて行く時には、古い町並みを再現した『琴台路』を抜けると便利である。途中、『文化公園』があって、そこを通り抜けると20分ほどで北隣にある『青羊宮』に行くことができる。近くの浣花南路と青羊上街の交差点の西南の角に四川博物館があるので、時間のある方はお訪ねを。
 また、青羊宮は人気の場所だけあって、多くの市バスが青羊宮前に停まる。私は、少し歩いてから自分のいる位置が分からなくなってしまったので、英語ができそうな若いご婦人に「琴台路はどこですか」と聞いたところ、「ここです」と答えが返ってきた。よく分からなかったので、もう一度「琴台路はどこですか」と聞いたところ、彼女はちょっと考えてから、私の腕をつかんで立派な門のある所に連れてきてくれた。「ここです」。「…?」。「分かった」私は琴台路にいるのに、「琴台路はどこですか」と聞いたので、スマートな(頭の切れる)彼女は、「琴台路の(美しい)入口はどこですか」と聞かれたのだと解釈したのだ。いるんだよなぁ、こういう予見力があって、スマートな人が。体型も、日本語英語で言う「すまーとダッタ」。「ありがとうございます」。しかし、長さがたかだか900メートルの琴台路で迷うとは、スマートなご婦人にお会いできるとは、「方向音痴万歳」。
 さて、その『青羊宮』であるが、成都最大の道観(道教寺院)である。成都市の『青羊宮』の成り立ちに関する記述は色々ある。大まかには、寺の起源は周代(紀元前1046年頃~紀元前256年)と言われ、三国時代へと続き、唐代に規模を拡張した。その後、明代に戦火で焼失しており、現存する宮殿は清代に再建されたものである。また、名前の『青羊宮』であるが、“青い羊”に乗った道教の始祖、老子がこの地に現れて教えを説いたという伝説によっている。そして、私のような方向音痴には容易には理解できないが、主要な建築物は南北一直線上に並んでいるそうである。

古い町並みを再現した通り・琴台路の美しい入口
琴台故径と書いた立派な門。つまり、「古い町並みを再現した通り(=琴台路)」の入口
古い町並みを再現した通りである琴台路
文化公園
青羊宮の入口にあたる霊祖殿

八卦亭と三清殿(無極殿)
 『青羊宮』の中で、先ずは、著名な『八卦亭』を訪ねる。『八卦』とは『易』の八つの図形を意味し、この組み合わせて吉凶を占うのであるが、その易の八卦を表しているのが『八掛亭』である。一言で、「美しい」。上段と中段の層の色が異なっている姿は珍しく、ある種の気品を漂わせている。また、全部で81匹の龍が彫られている。
 内部には老子が『青い牛』に乗り函谷関を出る場面の像が祀られている。
 そして、三清殿』である。多くの人がカメラを左右に向けている。「皆さん、カメラを左右に振って動画を撮っているのだろうか。それにしても何度も左右に振っている」と不思議だったのだが、左右別々に写真を撮っていたのだ。三清殿前に清代に作られた一対の黄銅製の羊の銅像が並んでいる。『双角の羊』と青羊と言われる『一角の羊』である。『双角の羊』は、1829年(清の道光9年)に雲南の工匠蔯文柄と顧体によって鋳造された銅像である。『一角の羊』は、1723年(清の雍正元年)に大学士張鵬が北京で購入して奉納したものである。
 写真を見ていただいて、両方の銅像とも体の上の部分が光っているのが分かりますか?そうです、共に災厄を祓う神羊と言われ、来訪者が触るせいです。

易の八卦を表した八掛亭
三清殿(無極殿)。前にある一対の黄銅製の羊が特徴的
三清殿の前にある双角の羊。一角の羊と共に災厄を祓う神羊
青羊と言われる一角の羊

杜甫草堂
 『青羊宮』から『杜甫草堂』に向かう。『杜甫草堂』は、1961年に中国国務院から後述する『武候祠』とともに「全国重点文物保護単位」に認定されている。人気の観光場所だけに、19、35、58、82路などの多くの路線につながるバスが停車するので、乗車位置によってこれらのバスの停留所から選択すればよい。
 先に、当ブログ『方向音痴の旅日記』-『新旅行記・アジア』-『中国・河西回廊~天水~』-『南廓寺』の中で、唐の詩人、杜甫(712~770年)が759年に『秦州』から『成都』に居を移した経緯に書いた。その後、成都の西郊外、浣花渓(かんかけい)の畔に有人の助力を得て庵を建て、年令で言うと48~51歳の約4年余り、ここで240首余りの詩を詠んだ。
 創建当時の庵は無く、現在残っている建物群は、1500年(明の弘治13年)と1811年(清の嘉慶16年)に修理再建されたものが元になっている。
 ところで、「詩仙の李白」に対し、「詩聖の杜甫」と言われ、さらに「詩仏の王維」と言われているが、この意味するところと言うか、違いはどこにあるのか、どなたか教えてください。

杜甫草堂
ドラマの撮影中らしい
杜詩書法木刻廟
大雅堂に建つ杜甫像
白居易
王淵明
この景色を見て詩が浮かんだのだろうか

武候祠博物館
 『杜甫草堂』から同じく成都の観光場所として人気の高い『武候祠博物館』へ82路バスで向かう。武候祠博物館(ぶこうしはくぶつかん)は、『三国志』で有名な蜀の丞相(君主を補佐する最高位の官吏)『諸葛亮(しょかつりょう。字を孔明という。181~234年)を祀った祠堂である。西晋時代末期(4世紀初頭)頃から建てられ、明代には主君・劉備玄徳の陵墓、漢昭烈廟と併合された。そして、孔明の贈り名である忠武侯に因んで『武侯祠』と呼ばれる。戦火のため、現存する建物は1672年(清の康熙11年)に再建されたが、その時に祀る建物が分けられた。
 37000平方メートルの広大な敷地には、南北方向の一本の道が(中軸線に沿って)大門、二門、漢昭烈廟(劉備殿)、武侯祠、三義廟を貫いている。順番に簡単に説明すると、
①『大門』から進むと、左右に『明碑』と『唐碑』と呼ばれる石碑
②そのまま進むと、『漢昭烈廟(劉備殿)』;『劉備』、『関羽』、『張飛』が祀られている
③その奥に、『武侯祠』;『諸葛亮』、『その子供』、『その孫』の像が祀られている
④最も奥に『三義廟』;武候祠博物館内に建てられたもので、『劉備』、『関羽』、『張飛』の義兄弟の友情を称えている

明 碑 
唐 碑
劉備像を祀る漢昭烈陵
武侯祠
諸葛亮の像。表情が優しい
三義廟

三義廟
 三義廟の建物に掲げられた『義重桃園』は、桃園の誓いで生まれた義は重いということを指す。劉備、関羽、張飛が義兄弟として生死を共にした生き方は、三国志ファンのみならず、多くの人々の共感を呼び、また、観光客が多いことも頷かれる。
 三義廟には、この三人の像と、『桃園の誓い』後のエピソードを記した10個の石碑がある。そのうち、関羽に関する一つを紹介したい。『関雲長刮骨療毒』とある石碑である。文献などから転記して簡単なあらすじを述べる。関羽が曹操の部下の曹仁の毒矢を腕に受け、すでに骨に毒が回っていたが、名医の華佗が手術をするシーンである。「荒療治なので、身体を縛り、目隠しをしようとする華佗に対して、関羽は華佗の提案を拒否し、馬良と平然と碁を打ちながら手術を受ける」というエピソードである。私なら麻酔薬の注射器を見ただけで気絶する。

『義重桃園』は、桃園の誓いで生まれた「義は重い」ということを指す
劉 備
関 羽
張 飛
『関雲長刮骨療毒』の石碑。「毒矢で侵された骨の手術を受けた時、馬良と平然と碁を打ちながら手術を受けた」というエピソードである

錦里歩行街
 大門を出て東方向に行くと、古い街並みを再現した『錦里歩行街』がある。『錦里』の入口は『武候祠』に隣接して「西蜀第一街」』と呼ばれている。ここで、『錦』とは成都のことを指し、かつて成都は錦の生産が盛んで『錦城』とも呼ばれていたことに由来する。300メートルほどの通りに、お土産屋、レストラン、喫茶店、旅館などがある。
 私が興味を持ったのは、中国の民芸品として有名な『剪紙(切紙)』屋さん。後日、訪ねる成都の『金沙遺址博物館』でその芸術性に立ちすくむ。

古い街並みを再現した『錦里』の入口
錦里の案内図。中国語、韓国語、日本語で表示されている
中国の民芸品として有名な『剪紙(切紙)』屋さん。この卓越した技術は、六朝時代から行われていたという。私も遊び心で数枚買い求めた。
街にある舞台
何でしょう

文殊院
 文殊院は南北朝時代(5世紀初め~6世紀末)に創建された仏教寺院である。古いお寺だけあって、時代の変遷にともなって名前も変わる。ガイドブックによると、唐代に『信相院』、一時『妙園塔院』と変わり、宋代には唐代の『信相院』の『院』が『寺』に変わって『信相寺』と呼ばれた。まだ続く。明代に戦乱で焼失してしまったが、(ここでやっと年号が入るのですが)1681年(清の康煕20年)に再建されて、現在の『文殊院』と名付けられ、現在まで残っている。貴重な文化遺産であり、今も信仰を集めている古刹である。
 山門をくぐると、左右に鐘楼と鼓楼の塔が向かいあって建っているのが見える。緑が多く、静謐な雰囲気が漂う。観音殿、大雄宝殿(本堂)、説法堂そして蔵経殿と続く。

緑あふれる文殊院の茶座 
 ところで、今まで何度かご紹介しましたように、中国には、皆さんが集まる場所、例えば、列車の中とか、駅、バスセンターなどにお湯を無料でサービスする貯湯タンクが備えてある。各自、茶葉をポットに入れて持ち歩いていて、必要な時にお湯を入れてお茶を楽しむわけです。世界的に著名なコーヒーショップ“S”などはおしゃれを売りものに若い人達に人気があるが、圧倒的に『my茶』が多い。そして、ここ文殊院では『茶座』なるものが人気のスポットとしてお客を集めている。由緒ある建物と美しい緑を眺めながらお茶を楽しむのである。茶座「香園」の利用方法は簡単で、入り口の売店で買った茶葉を「取水区」にいるお椀係に見せると、『蓋碗(がいわん)』とお湯の入った大きなポットがもらえる。『蓋碗』とは、蓋(ふた)付きの茶碗、茶托(受け皿)の3点セットのことである。あとは自分の席で思い思いにお茶をいれ、楽しむのである。ここで、「lovely」と言えば、『イングリッシュ・ティ』である。女性の場合?ですが。

文殊院の周囲の文殊坊は古い町並みを再現して観光客で賑わっている
文殊院の阿弥陀仏
鐘 楼
鼓 楼
文殊院大雄宝殿(本堂)
康煕36年(1697年)始建の説法堂
堂内にしつらえられた戒壇の中央壁面に、康熙帝の筆による「空林」の石刻が掲げられている