モンテネグロのコトル

コトル
 クロアチアのドゥブロヴニク発8時15分に出発しモンテネグロのコトル着10時45分、2時間半の行程であった。進行方向に向かって右側の座席は美しい海側で、眺めがよく、退屈しない。途中、約1時間経過で国境、警察官がバスに乗り込んできて乗客のパスポートを集め、事務所みたい所に行く。20分くらい経ったろうか、 パスポート が返却される。10時20分頃フェリーに乗船、10時50分頃コトルのメィンバスターミナルに到着。ここから観光の目玉である北側の旧市街まで歩いて10分ほどだ。街そのものは一辺はコトル海、一辺はシュクルダ川、一辺は海に囲まれた三角形の小さい要塞都市であり、世界遺産に指定されている。

クロアチアとモンテネグロの国境
コトルの城壁が見えてきた
コトルが近づいてきた

 私にしては珍しい一泊だけ(二日にちょっと足りない)の滞在なので、町の概略を急いで頭に入れたが、すぐに忘れてしまうので、そこはいきあたりばったりで。どうなることやら。
 城塞内の西側にある正門から入ると、中心広場があって、観光客が一斉にカメラのシャッターを切っている。目的は1602年に建てられた時計塔である。こちらもかつてはお城であり、頑強な姿は存在感を感じさせる。想像される国名は言わないが、被写体になっている安定感のあるおばさんの立ち姿が往年の名女優、マレーネ・ディートリッヒに見えるくらいがっしりした建物であった。何故か、私の口からマレーネ・ディートリッヒが出てきた。

城塞都市コトルの旧市街への正門
中心広場に建つ時計塔

マレーネ・ディートリッヒ
 その理由は、実は、ブルー・レイで1957年制作の米国映画『情婦』を観ながらというか聴きながら、この原稿を書いている。アガサ・クリスティ自身の短編小説をベースに著した戯曲『検察側の証人』を原作とする、法廷ミステリーと言われる映画である。ビリー・ワィルダー監督、チャールズ・ローストン、タイロンパワー、マレーネ・ディートリッヒ出演の米国映画である。米国映画と言いながらも、そしてアガサ・クリスティの作品だとは知らなくても、『旅をこよなく愛する読者』なら英国を随所に感じられることでしょう。私は随所で笑ってしまったが、弁護士が葉巻をかけるシーンで、「ベッティング」と声を上げて大笑いしてしまった。法廷弁護士が、裁判中に自分の担当する被告人が『有罪 or 無罪』で賭けをするシーンである。まさに英国的だ。
 『銀幕の女王』、『脚線美のマドンナ』、『ハリウッドの妖精』、『パラマウントの女王』等々、色々な『name』を与えられたディートリッヒ。時計塔の前に立つと、あのおばさんが、あの世界一美しい曲線美のディートリッヒに「みえてしまった」いや、「見えた」のだ。誤解無きよう。私は細身が好みとは言っていない。ハラスメントではない。
 それにしても、よほどの映画好きでなければ、若い人にはこの映画のことなど知らないだろうね。旅をより深く楽しむために、是非、ご覧になってください。『老婆心』ながら。えっ、『老婆心』は禁句なのかなぁ。『老爺心』ながら。

まだ続くマレーネ・ディートリッヒ
 キューバのハバナを訪ねて折に、『老人と海』の著者、アーネスト・ヘミングウェイがこよなく愛したという由緒あるレストラン『ボデキータ』に行ったが、予約が必要だということで、諦めざるを得なかったことは、別紙?に書いたが、実はこの話には続きがある。食事を終えた男性が、ハバナ大学の教授だったのだが、日本人が珍しかったのか私に話しかけてきて、レストランの外でお茶をしたのだ。研究対象ではないが、アーネスト・ヘミングウェイに陶酔しているという。『キューバで映画祭』が行われていたこともあって、ヘミングウェイとマレーネ・ディートリッヒの話になった。そして、『謎の言葉』が発せられた。ヘミングウェイがディートリッヒに宛てた手紙で書いた言葉だ。「心臓の鼓動を忘れるように、私は君のことを忘れているようだ」。参ったぁ。

名ゼリフにまいって
 「心臓の鼓動を忘れるように、私は君のことを忘れているようだ」の名ゼリフに参ったのか、時計塔から迷って30分もかかってしまってスヴェタ・ニコル広場に来た。ここには聖ルカ教会と聖二コラ教会の2つのセルビア正教会の教会がある。聖ニコラ教会の創建が1909年に対して、聖ルカ教会は1195年創建の小さな、古びた外観のせいか、むしろ存在感を感じさせる。信者さんだろうか、熱心に礼拝している。

1195年に建造されたセルビア正教会の聖ルカ教会。ロマネスク様式の建物
内部には金色に輝く多くのイコン(聖画)が飾られている。半分しか残されていないフレスコ画も

 もう一つ、是非、訪れたい教会がある。岩礁の聖母教会である。そこに行くには、まずコトル湾沿いの町ペラストに行かなければならない。コトルからバスでわずか20~30分である。立派な聖ニコラ教会の鐘楼が見える。この町では、唯一、高い建物なので ペラスト に着いたことがすぐ分かる。実は、これから訪れようとしている『聖母マリア』の本物のイコンは、岩礁の聖母教会ではなく、この教会にあるということだ。

ぺラストの町にある聖ニコラ教会の鐘楼

岩礁の聖母教会
 説明書を要約するとこうなる。聖母マリアのイコンが発見されたという伝説に因んで、航海を無事終えた船乗りがそこを通る度に岩を埋めて、積もり積もって小島になったという話である。
 ペラストからボートに乗って、岩礁の聖母教会に向かうのだが、乗客が一定数集まったところで出発のはずが、この気のいい若い船頭、私は「キャプテン」と呼んでヨイショしたが、私以外にお客がいなくても出発だ。「大丈夫だろうか?」、大丈夫、こいつ、彼女と携帯電話で遊んでいるのだ、ずうーっと。「上陸後30分で戻る」とチケット売り場のお姉さんに言われたが、降り際にキャプテンは、教会を指差して「インサイド、パーティ。リターン、パーティ」。「帰りはこのボートではなくて、団体のボートに乗れ」らしいことは何となく分かるのだが、「インサイド…」は分からない。とにかく、「サンキュー」だ。
 聖母マリア教会の祭壇には聖母子像が飾られ、また、中には博物館もあるせいか、内部の狭い空間が団体の観光客で混雑していた。突然、「パーティ?」の声。「パーティ?おっ、あっ、パーティ、パーティ・イェス」。何かわかりますか?そうです、団体なので、入場料はとられませんでした。「マリア様、ごめんなさい。告解します」。
 今夜の夕食は、久々にアドリア海の手長エビ(イタリアではスカンピ)料理を予定していたのですが、反省して、諦めます。

聖母島へのチケット
聖母島が見えてきた
島は岩を積んで造った人工島
岩礁の聖母マリア教会の祭壇には聖母子像