中国・雲南省 昆明郊外(1)~西山風景名勝区~

中国人ってこんなに優しいの?
 インドのコルカタ (カルカッタ) 空港 (CCU) を00 時30分に出発、中国の昆明長水国際空港に(中国時間;中国北京時間)05 :10に着く。両国の2時間半の時差を考えても、実質の睡眠時間は、…ということで、機内でインドのビールを飲んだ覚えはあるが、あとは何も覚えていない。
 昆明長水国際空港は、航空需要の増加に対応するために、西部大開発の一環として市内から25キロメートルほど東側に建設された空港である。2007年11月15日に工事が開始され、2012年6月28日に開港した。今日は2013年3月19日朝5時半である。インドのコルカタ(カルカッタ)空港から20分ほど前に到着したのだが、まだ開港9カ月の空港内部は、早朝とは言え、埃一つないピカピカである。閑散としていて、ロビーにつきものの小さな店も、両替所も開いていない。『ツァリスト・インフォメーション』も人がいない。この時間じゃ無理もないか。
 事前の情報によると、空港から昆明市内に向かうのに、軌道6号線があるが途中までであり、現時点では行先によって区分されている空港1号線から空港6号線まである「エアポートバス」を利用するか、タクシーが便利である。とりあえず、ホテルに向かわなければならない。エアポートバスに乗るべく外に出たところ、知らないおじさんが「ノー、バス」と言いながら近づいてくる。「多分、タクシーの客引きだろう」と無視して、周りを見回したが、バスも見えない。また、「ノー、バス」と言いながら数人が近づいてくる。英語は全く話せないらしい。どうも、まだバスの運行開始時間ではないらしい。タクシー以外の選択枝は無いようだ。「100元」と書かれた数字を見て、「しまった、私は70元しか元の現金を持っていない。両替所も閉まっている」。焦ってお願いしたが、日本円やドルでは受けとらない。参った。そうこうしているうちに、貫禄のある50代くらいに見えるおじさんが、出てきた。私が財布を広げて中の70元を見せると、取り巻きの手下たちに命じて、私の荷物を運ばせ、「ありがとう」と聞こえるような日本語で、にこっつ。「ありがとう」は私が丁重に言わなければならない言葉なのに…。昆明のお助けマン、「ありがとう」。
 タクシーの運転手は、高速道路を飛ばし、中国語で書いてあるホテルの名前と住所のメモを見ながら、無事ホテルの入口まで行ってくれた。
 「中国人って、というか雲南の人達ってこんなに優しいの?」

チェックイン&西山風景名勝区へ
 早朝のチェックインにもかかわらず、予約通りの3泊の料金でOKだった。半泊分あるいは1泊分を追加されても仕方が無いのであるが、「シャワー」と言ってくれた。両替についても、日本円は両替できないので、100元貸してあげるから後で銀行で両替して戻してもいいよ」と言うような拙い英語のやり取りで10元を10枚貸してくれた。とりあえずの移動は可能だ。本当に、「雲南の人達ってこんなに優しいのです」
 すっきりしてから、あらかじめ調べておいた郊外の『西山風景名勝区』、『石林風景名勝区』、『九郷風景名勝区』へのそれぞれの行き方を中国語で書いてもらった。
 昆明初日なので、それに深夜便でインドから着いたばかりなので、無理をしないで近場の『西山風景名勝区(西山森林公園)』に出かけることにした。「バス、OK」の指サインをホテルのスタッフからもらったので、ホテル近くの停留所(バスストップ)→眠山バスターミナル→(6路バスで)西山森林公園のルートがベストらしい。
 眠山バスターミナルに着くと5人ほどが既に来ていた。西山風景名勝区の案内ポスターを見ながら話しこんでいるが、全員中国語であるので理解できない。仕方が無いので、案内ポスターを写真に収めようとカメラを向けたところ、「撮ってあげますか」と言う英語。二度、三度言われて、「ポスターをバックに写真を撮ってあげますか」と言ってくれたことを理解できた。まだこの頃は中国旅行に凝る前だったので、つまり慣れていなかったので、中国人への接し方とでも言うか、会話の間合いの取り方などが全く初心者だったのだ。もちろん、十数億人もいる中国であるから、一括りで論じることはできないが、…。
 人の親切はすんなりと受けるほうなので、「ありがとう」と日本語で言って、ポスターをバックに写真を撮ってもらい、「あなた方を撮っていいですか」と英語で聞いた。「OK、OK」と笑顔。若いお嬢さん達の笑顔は、どこでも、誰でも眩しく、人を幸せにする。試し?が効いて、「ありがとう」で日本人であることを理解してもらった。そして、「レッツゴー」になった。「あーあ、良かった、あーあ、幸せ」。
 教訓;人の親切には、外国では「サンキュー」ではなく、使い慣れている「ありがとう」と言いましょう。笑い;使い慣れていない方々は、日常生活(日本語)から始めましょう。何事につけ、感謝の気持ちを込めて「ありがとう」と言いましょう。

空港から昆明市内までの高速道路の入口
西山風景名勝区(西山森林公園)行バス乗り場(眠山バスターミナル)
眠山バスターミナルから一緒になったお助けお嬢さん3人組。「Arigatou」
西山森林公園のバス停留所。眠山バスターミナルから30分もかからなかった

森林公園の散歩開始
 眠山バスターミナルを出発した6路バスは30分もかからないで、『西山森林公園』のバスの停留所に着いた。驚いたことに、観光バスやツァーのバスではなく、いかに公共バスとはいえ、バス料金が1元であったことだ。この後、私は相当の年数をかけてトータルで200日間ぐらい中国全土を旅しているが、今回の旅は中国行脚を始めた最初の頃でもあったので、余計驚いた記憶がある。それも日本で走行しているそれ以上の豪華バスである。
 「中国の観光地の各種の入館、入園、入山料金などは通常の国民の平均収入からみて高い」と多くの日本人旅行者が言うが、確かにそういう見方もあるとは思うが、私にはよく分からない。ここ『西山森林公園』はそういう議論を閉じてしまう迫力がある。バッテリーカーやリフト代金、それに『劉門石窟』の入場料は別途払わなければならないが、入山・入場料金は年齢にかかわらず、無料なのである。
 さて、今日の私は、無料の若い女性ガイド3人がついているのである。幸運にも英語も通じるし、「ありがとう」にも微笑んでくれるし、何も言うことが無い。それに、この雄大な景色、きれいなすがすがしい空気感は、私の表現力を超える。ここは写真を中心に進めますので見て楽しんで下さい。
 ここ『西山森林公園』の魅力は、山中にある『華亭寺』と『太華寺』、『龍門景区』内にある石窟と道観(出家した道士が居住する道教寺院)、そして遊歩道のハイキングと言われる。わがガイド嬢達は中国語で書かれた地図付きの小冊子を片手に「キャーキャー」言いながら、そして私に気遣いしながら歩む。私は、普段は静けさを好むくせに、今日はその「キャーキャー」が心地よく響く。勝手なものである。いつもは、J.S.バッハの『6声のリチェルカーレ』をこよなく愛している私が、今日は、『♪♪♪』と大変身である。音楽が出てくるということは、今の私は上機嫌なのである。
 お嬢さん達にお任せの私は、メモ帳に中国語と英語でお寺の名前などを書いてもらったり、カメラをパチパチやるだけである。教わった一部と後で調べた知識をご紹介します。

よく整備された参道(山道)。ハイキングはここの楽しみの一つ
入山してから最初の休憩所。歩き始めたばかりであるが、お嬢さん達は私に気を配ってくれた

華亭寺
 『華亭寺』は西山華亭峰の中ほどにあり、元は円覚寺と呼ばれていた。現存する建物は、1923年、虚雲大和尚が再建したものである。昆明最大の寺院で900年の歴史を誇る古刹である。再建中に「雲栖」の字が刻まれた石碑が見つかったことから、寺院は『雲栖靖国禅寺』と改名されたが、現在も華亭寺の名で呼ばれている。
 山門をくぐると池(放生池)があり、その先には天王宝殿がある。中に入ると天王宝殿の表門(おもてもん)と対になって金剛力士の塑像が鎮座している。巨大で勇ましい表情で華亭寺を守護しているのである。殿内にはさらに弥勒像、韋駄天像、四大天王像が安置されている。

西山華亭峰の中腹にある華亭寺。昆明最大の寺院で900年の歴史を誇る古刹である
きれいに清掃された中庭
雲栖禅寺(せいさいぜんじ)天王宝殿
雲 樓

太華寺
 『華亭寺』を出したからには、それと並び称される『太華寺』に向かわなければならない。写真に示したが、『西山景区案内図』にあるように、ここ『華亭寺』と『太華寺』を結ぶ『太華古道』が便利である。距離は1.6キロメートル、歩いて30分、まさに遊歩道である。
 『太華寺』は西山の最高峰、太華山の中ほどにあり、『仏岩寺』とも呼ばれる。創建者は『雲南禅宗第一師』と称される『玄鑑』で、1300年から1310年頃に建てられた寺院である。『華亭寺』より10年ほど古いことから、西山で現存する寺院の中で最古の仏教寺院である。

西山景区案内図
華亭寺と太華寺を結ぶ距離1.6キロメートルの『太華古道』
太華寺の門の外にある大きなイチョウの古木
太華寺
西山で最大規模の寺院、太華寺
屋根のアップ
太華寺の内部

聶耳の陵墓
 『中国国歌義勇軍行進曲』の作曲者である聶耳(じょうじ)をご存知でしょうか。私は、彼の陵墓や記念館が西山にあることを初めて知りました。そして、1935年欧州留学のために立ち寄った日本国藤沢市で溺死、その縁をもって『昆明・藤沢友好林』が西山にあることを知りました。享年24才。合掌。

中国国歌義勇軍行進曲の作曲者・聶耳(じょうじ)の陵墓
聶耳の立像
昆明・藤沢友好林

西山龍門石窟
 「登龍門」の語源である『龍門石窟』に向かう。滇池(てんち)の西岸にあり、滇池に面した断崖絶壁に刻まれた道教石窟群である。楊父子と70余名の石匠によって、1781年から1853年の22年の歳月を費やして完成させたものである。
 お嬢さん達の持つ案内書によると、龍門石窟は漢字で「奇、絶、険、幽」を特色とする石窟だそうだ。深い内容は読み解けないが、表意文字である漢字にすると、イメージは浮かぶ。しかし、その後に続く説明文については、お互いに外国語である英語では、もう一つ物足りない。それで帰国後に中国語の分かる人に聞いたところ、説明文を漢文調に読み解いた。「昆明に到りて西山に到らざれば未だ昆明にあらず。西山に到りて龍門に登らざれば未だ西山にあらず」だそうだ。何となく分かったような気がするが、…。その『龍門』に私は向かっている。気持ちの昂りを抑えられない。
 龍門石窟は三清閣から龍門の頂上の達天閣まで全長66.5メートルで、慈雲洞、雲華洞などがある。『慈雲洞』から『雲華洞』と呼ばれる岩壁をくり抜いた全長40メートルの桟道(トンネル)が続き、中に掘られた階段を上ると『竜門』に行き着く。西山で一、二を争うビューポイントだけに観光客で混雑している。竜門を過ぎて人の流れに任せて歩くと、頂上に近い所に達天閣が彫られている。
 お嬢さん達が『竜門』の光っている部分を撫でていたので理由を聞くと、訪問者が撫でるために光っているという。触ると「良い事がある」そうだ。昔は、「科挙に合格する」とか、「出世する」ことを願ったそうだが、現在は、「?」、「?」を願うそうです。「?」、「?」については、ご自分で想像してください。若いお嬢さん達ですから、「あれですよ、あれ」。
 それにしても、この『蒼崖萬丈』の崖に、70余名の石匠が22年の歳月を費やして完成させた石窟、石彫、石坊、石段、石道、石刻等々、想像を絶する労苦であったと、身震いしてしまう。

旭光亭
『龍門石窟』入場券売り場
眼下に広大な 滇池(てんち) が見える
羅漢崖
羅漢崖の終点に近づく
三清閣
財 神
普陀勝境。ここを入ると龍門である
雲華洞
断崖絶壁に造られた龍門石窟
龍門の頂上に穿たれた達天閣
『龍門』と刻まれた石窟前の展望台は一番人気である
穿雲洞
手掘りのトンネル
眼下に見える景色