中国・雲南省 麗江郊外(2)~虎跳峡~

虎跳峡に向かう
 早朝、6時30分、金沙江沿いに伸びる全長20キロメートル 、高低差3000メートルの大峡谷・『虎跳峡(こちょうきょう)』に向かう。地理的には、金沙江は『麗江』の『玉龍雪山(ぎょくりゅうせつざん)』と『香格里拉(シャングリラ)』の『哈巴雪山(はばせつざん)』の間を流れる川で、麗江からも香格里拉からも同じような距離にある。標高も玉龍雪山のそれは哈巴雪山の5396メートルと大差なく、どちらから虎跳峡に向かっても良いのであるが、私の選択は後日シャングリラに向かう予定だが、とりあえず麗江側から 虎跳峡 を攻めることにした。
 2014年当時の旅行ガイドブックによると、公共交通は不便であって、麗江市内から往復400元でタクシーをチャーターすることを勧めていたが、ホテルのスタッフのアドバイスは違った。早朝6時30分に市内のバスターミナルから『虎跳峡』行きのバスが出ていて、3時間から3時間半くらいで到着するという。料金は、確かバス料金30元+保険料3元だと記憶している。片道約80キロメートル、往復で約160キロメートルの距離を70元、それも保険料付きである。タクシーをチャーターした場合に比べて、400-70=330元も浮く。選ばない手はない。
 夜も明けきらない早朝6時30分。国土の狭い、それも縦(南北)に長い日本では考えられないが、東西に国土の広い中国では北京時間(中国標準時)の早朝6時30分は、西側に位置するここ麗江では未だ夜が明けきらない時間である。それにしても、次第に明るくなっていく、それも明るくなるにつれて峡谷が険しくなっていく第一級の景色の変化は超お勧めです。

早朝、6時30分、麗江から金沙江沿いに伸びる全長20キロメートル 、高低差3000メートルの大峡谷・虎跳峡に向かう
出発して2時間後、遠くの山も白み始めた
雲が低く見える。皆さん、車内から写真を撮っている。雲海が好きである
出発して3時間。『虎跳峡景区』まで10キロメートルの道路標識。胸が高まる

高山病対策
 ホテルのスタッフに聞かれたのだが、「高山病の治療法の1番は何か?」。「?…」。私が答えに窮していると、彼はにこにこしながらこう言った。「下山または低地に行くことです」。「こいつふざけているのか」。でも冷静に考えてみると、その通りだ。そもそも高山病の症状は、低血糖、脱水症状、頭痛などと覚えていたので、素人療法で、彼のくれた飴をなめていれば低血糖対策にはなりそうだ。念がいったことに、飴が入っていた袋には、觔斗雲(きんとうん)に乗った孫悟空の絵が描かれていた。御存知のように、雲に乗って空を飛ぶ架空の雲『觔斗雲』と孫悟空、まさに高低差3000メートルの大峡谷である虎跳峡を象徴している。こいつ、意図したかどうかは定かではないが、「ユーモアとしても一流だ」。脱水症状対策は、こまめに水を飲むことでいいだろう。

ガイダンス
 麗江のバスセンターから3時間半くらいで『虎跳峡』の駐車場となっている建物の前に着いた。レストランを兼ねた広い待合室のような部屋に通され、管理人のような人が簡単な地図を配りながら説明を始めた。
①このエリアで金沙江の川幅が狭くなっており、虎がこの峡谷を飛び越えたというのが名前の『虎跳峡』の由来です。
②上流から順番に、『上虎跳峡』『中虎跳峡』『下虎跳峡』に分けられ、一般のガイドが付くツァー旅行の場合は麗江側の『上虎跳峡』を選ぶ人が多いです。『中虎跳峡』は峡谷が切り立っていて険しいです。
③『虎跳峡の入場券』を買い求めてください。上、中、下のどの虎跳峡に行かれても65元です。
④帰りのバスの時刻表は貼りだされています。
⑤気を付けて楽しんでください。
 「そう言われたら、『中虎跳峡』を選ぶしかない。ここで止めたら沽券にかかわる」。そう考えているらしい年寄りが数人、勇んで出かけてしまった。初めて会った私と同年配らしい男性は、「どうしますかね?」と話しかけてくる。「うっ、I wonder…」、英国人だ。隣にいた奥さんが「ネヴァー」と言って止めたせいか、彼はむきになって、私に向かって「レッツゴー」。「受けて立とうじゃないか」。奥さんの強い希望で、いきなり『中虎跳峡』に行かずに30分くらい管理棟の周りを散歩することにした。
 ここからでも、エメラルドグリーンの美しい川は眺められるし、流れの急なダイナミックな風景、好きな橋は見られる。ビビっているのではない。楽しんでいるのである。御同輩と目配せをして、中虎跳峡に向かった。

虎跳峡の入場券
エメラルドグリーンの川
ダイナミックな風景
神川大橋

中虎跳
 中虎跳の入口に、英語と中国語で書いた黄色い看板があった。簡単に言うと、「この山道は歩きやすくするために、地元民が政府の援助を受けないで造ったもので、これを維持するために10元を支払って下さい」。「途中、リフレッシュメントもあります」のような意味である。
 中虎跳は、上虎跳峡と比較して地形がかなり険しく、距離だけでなく勾配も急になっている。階段が途切れている所が多く、川に向かって降りていく時に滑ったり、躓いたりと厳しい状況が連続する。中途まで降りたはいいが、それ以上は進めず、そうかといって戻る(登る)こともできず、「ヘルプ・ミィー」と叫ぶ爺さんもいる。私の場合は助けに行くのも危険なので棒につかまって見ているしかない。こういう時に役に立つのが、『馬追い』というか、『馬子』のグループである。馬を上手に使って、救急車じゃない、救急馬になるのである。相手が大きい馬だけに乗っている時に掴まる所がなく、私は乗らなかったが、私なら確実に落馬してしまうだろう。
 この馬子達の仕事がもうひとつあった。前述したように、虎跳峽は高低差3000メートルの峡谷で、高山病の恐れがある高地である。「孫悟空飴」で対応が難しい時は、写真に示した「ブドウ糖注射液」がある。馬子達は忙しいのである。
 ここまで述べたことだけでは、『中虎跳』は危険な場所だけのイメージが定着してしまう。言いたいことは、「それでも出かけたい峡谷である」。お勧めは、一番下(川に近い場所)にある虎跳石の上から見る景色である。流れの激しさと見上げる両側の山々の迫力に感激すること間違いなしです。

蛇足ながら締めくくり
 流れのしぶきを浴びる一番下まで降りた人達は、証拠写真を撮ってガッツポーズ。しぶきを目前にダウンした方々も努力賞。さて、ガイダンスの直後に、「『中虎跳峡』は峡谷が切り立っていて険しいと言われ、ここで止めたら沽券にかかわる。『中虎跳峡』を選ぶしかない」と意気込んで出かけた年寄りの方々は、…?そう、ことごとく下を向いて弁解していた。それにしても目的達成度は、圧倒的に女性の方が多かった。「今時、筋を通し、不言実行するのは女なのです」。
 ここまで読んでくださった方々は、気になる人がいらっしゃいますね。そう、私のご同輩の「レッツゴー」さんは、英国人らしく、レストランで奥さんと二人でティを飲んでいた。
 ほら、もう一人、いるでしょう、ほら。気になる人が?「ええいっ、もう。おわり」

中虎跳への入口。ここでも10元の支払いを求められた
中虎跳への入口
傾斜の険しい斜面に咲く孤高の美しさ
急傾斜で足場が良くないため、とくに戻る時(登り)に馬に乗る人もいた
馬子たちが持っていたブドウ糖注射液。高山病対策のエース的存在である。よく考えれば、虎跳峽は高低差3000メートルであった
途中にあったリフレッシュメント売り場
鉄の梯子を下から写す。近道ではあるが、それ故に急勾配である
中虎跳峡。「さあ、こいっ。ここからがさらに難所」
人間が小さく見える
中虎跳峡の撮影に夢中な観光客。ここまで降りてきた人の中に年寄りはいなかった。そして女性の方が多かった。
写真の左上に赤いペンキで「虎跳石」と書かれている岩が見えるが、ここから見る流れの激しさと両側の山々の景色は超ド迫力
うわぁ
静かなり