中国・雲南省 シャングリラ

シャングリラへ
 昆明→大理→麗江といわゆる『茶馬古道』を旅し、ついに今日は『シャングリラ(香格里拉)』に向かう。この地名については、こういう経緯がある。英国の作家ジェームズ・ヒルトンの小説『失われた地平線』の舞台になった理想郷シャングリラは、この地域のことであると中国の地方政府が主張し、2002年に中国語で同じ響きになる香格里拉に改名された、という経緯である。元々あった地名の『中甸(ちゅうでん:チベット語でギャルタン)』は、どんな意味だったのだろう?
 康仲路にある麗江バスターミナル発8時20分の高速バスは、4時間をかけて香格里拉バスターミナルに着く。この建塘鎮の北側にあるバスターミナルから街の中心である独克宗古城(どくそんこじょう)へは、2キロメートルちょっとある。南北にほぼまっすぐ伸びる香格里拉大道を走る1路バスか3路バスで南下して、『古城』で降りるとよい。降車する時にバスの運転手から「ドッグ、ウォン、ウォン」と聞こえるような言葉が発せられた。数回言われて分かった。香格里拉は、獰猛な性格で知られるチベット犬の産地だそうだ。

麗江からシャングリラへの高速バスのチケット
麗江発シャングリラ行き高速バスで、約4時間。標高2,000メートルくらいから3,300メートルくらいまで一気に登って行く
終点の香格里拉が近い。険しい山々が見えてくる
バスセンター近くで売っていたヤクの干し肉やドライフルーツ

独克宗古城へ
 独克宗古城(ドゥーコーゾングーチョン)の「古城」の意味は、今までいくつかの町でご説明しましたが、ここシャングリラでも同じ説明をさせていただくことになります。つまり、「独克宗(どくそん)」という古いお城の固有名詞ではなく、「独克宗(どくそん)と名付けられた古い都市(Old Town)」を意味する。ついでみたいで(英語的にはand的表現かな?)申し訳ないが、独克宗とはチベット語で月光城と言う意味だそうだ。ガイドブックによると、この地域に暮らしていたチベット族が家の壁を保護するために白い粘土を塗ったのだが、その壁が月の光に照らされて輝いて見えたため、こう呼ばれているそうだ。
 独克宗古城は、面積が1平方キロメートルにも及ばない狭いエリアである。そのせいか、大亀山公園に立つマニ車(まにぐるま)は鮮やかな金色と相俟ってより巨大に見え、まさにランドマーク的存在である。マニ車とは、チベット仏教で用いる円筒形をした仏具で、マニ車を回すことで功徳が得られると言われている。ここのマニ車は超重くて、大人3人で挑戦したが、静止状態から回り始めるまでてこずった。慣性力ゼロの状態から始めるのであるから、力学的には当たり前のことだが、まぁ、神聖な気持ちで力を合わせているのだから理屈はこねない。

独克宗古城の中心・四方街近くの門
古城内の中心部でもある大亀山公園に立つ巨大マニ車
大亀山公園に立つ巨大マニ車のアップ

古城の四方街
 独克宗古城の中心は、四方街である。ヤクを引いてお客さんを乗せたり、赤いテントを張った露店でヤクの干し肉やヨーグルト、バター茶などを量り売りで売っている。バスセンターまでの一路バスのバス停も近くにあり、また、小さいながらも旅行会社もあり、郊外への日帰り旅行などの出発点となっている。200メートルも歩けば、ランドマークのマニ車がある大亀山公園にも行くことができる。また、この大亀山公園には、『紅軍長征博物館』と『中心鎮公堂』が近接して建っている。
 紅軍長征博物館は、国民党軍に敗れた紅軍(中国共産党)が、江西省瑞金を放棄して、国民党軍と交戦しながら、金沙江を渡って迪慶州に到達したことを記念した博物館である。薬草などのチベット医学に関する展示がされていた。
 説明員はユーモアのある青年で、英語で薬草のご利益について説明してくれた後、「四方街の露店へ行けば、薬草を売っているので、シャワーを浴びる時に使ったらいいよ」と教えてくれた。日本なら、さしずめ入浴剤としての利用が良いということであろう。「効能は?」と聞いたところ、「バック・トゥ・トゥエンティ(20歳に戻れる)」と即答された。「その3倍のスィックスティで十分だ、イナッフ」と答えたところ、返ってきた「ユー、ノー、ニード、ハーブ」で会話が混乱した。「You, No need Herbs」ととれば「ハーブは必要ない」にもとれるし、ネイティブがよく使う、会話のつなぎに使う「you know」であるならば「You know, need Herdsハーブは必要だ」にもとれるし、そうでないようにもとれるし、…。英語を母国語としない人同士が話す時は、このようなことをよく経験する。日本語で話す時は日本人の思考で、英語で話す時は英語で発想するので、ましてや英国人は、ひとひねりを入れてくるので、随分と訓練させられた経験がある。
 この話の顛末であるが、このユーモアのある説明員が、彼の名刺の裏に何かを書いて「これを四方街の露店でヤクのヨーグルトを売っているおばさんに見せてください」と私に名刺をくれた。その名刺のおかげで、とてもおいしいヤクのヨーグルトをいただいた。「ありがとう」。
 地元の人達に「蔵経院」と呼ばれる中心鎮公堂は、1724年(清の雍正2年)に建てられた建物で、古城のかつての中心地であった。屋根の宝塔に見られるチベット式の建築様式と、反り返った屋根などに見られる中国式建築様式を合体させたというか、折衷して3層の建築物に仕上げているあたり、まさに才能の豊かな人達の共同作業の成果を目のあたりにしているのである。内部の壁には仏画が描かれているが、“撮影禁止”で皆さんにお見せすることができない。申し訳ありません。
 また、ここには共産党の司令部が置かれたこともあったそうだが、確認できなかった。

四方街から大亀山公園方向を写す
四方街でヤク乗り遊び。奥に見える赤いテントの露店では、ヤクの干し肉やヨーグルト、バター茶などを売っている
紅軍長征博物館
古城のかつての中心地、中心鎮公堂
共産党本部が置かれたこともあった

松賛林寺
 『松賛林寺』は、街の中心部から北へ5キロメートルほど離れた小高い丘の斜面に建つ雲南省最大かつ最古のチベット仏教寺院である。 清乾隆帝60歳と皇太后80歳を祝い、少数民族の王侯貴族を招くために4年の月日をかけて建造された。 寺院のチベット名『ソンツェンリン・ゴンパ』の漢訳が『松賛林寺』であり、『帰化寺』と呼ばれることもある。『松賛林』とは「天界の神様が遊ぶ地」を意味している。また、ラサにあるポタラ宮を モデル にして作ったため、『小布達拉宮』、『雲南のポタラ宮』とも呼ばれている。
 街から3路バスが運行しており(一元)、『松賛林寺』で降車すると、すぐ寺のチケット売り場である。壮大かつ美しい建物が目に入る。標高3000メートルを越す高地特有の高山病を意識しているためか、酸素ボンベを持参している人もいた。私は、昆明から大理、麗江そして香格里拉(シャングリラ)と少しずつ体を慣らしてきたので、呼吸が苦しいなどの体の違和感は感じられない。
 メインとなるのはツォンカパ宮殿で、チベット様式の巨大な仏像が安置され、僧侶達が百人近く座れる席が用意されていた。しかし、中は写真撮影禁止なのでお見せすることはできません。これまた、申し訳ない。

チベット仏教寺院・松賛林寺(ソンツェリン寺)。ポタラ宮にも例えられる
メインとなるツォンカパ宮殿の中にはチベット様式の巨大な仏像が安置されていた
ツオンカパ宮殿の正面のアップ
山肌に「香松賛林寺」の文字が書かれていた

普達措国家公園
 中国で最初の国立公園をご存知ですか?そうです、ここシャングリラから東に22キロメートル離れた『普達措国家公園』です。私もここに来て、初めて知りました。四方街にある旅行会社が主催している日帰りツァーに参加した。四方街でピックアップされて公園の入口まで行き、そこから見所にシャトルバスで案内され、遊歩道を歩き、また移動するという方法であった。
 標高3500メートルの高山湖である属都湖、属都湖と碧塘海の間にある高台で標高3700メートルの弥里塘、そして4.5キロメートルと長い遊歩道を持つ碧塘海の3か所が見所と説明された。碧塘海の長い遊歩道を歩くのが大変な場合は、駐車場から300メートルほど離れた位置にある船着場から船が出ていると説明された。いずれにしても、季節は3月末、緑にはまだまだ早く、春の花々も見られない。

小動物が人気を集める
碧塔海
普達措国家公園のスタッフ(チベット族)
普達措国家公園のスタッフ(チベット族)

シャングリラ雑感
 香格里拉の皆さんの生活を覗きたいので、民宿みたいな宿に泊まったのだが、支配しているおばあさんも、お姉さんも、孫もまったく英語が通じない。「寒いので、ヒーター無いですか?」と、口と手と足を使って説明?しても駄目。このおばあさん怒ってしまったのか、私の腕をつかんで外に出そうとする。抵抗したが、結構強く引っ張られ、隣の立派な(星付きの)ホテルに連れていかれる。支配人(オーナー)に中国語で何か言っているので、様子から「私がここに泊まる」と言っているんだろうと当たりを付けたが、全然違った。突然、流暢なそして上品な英語が飛び出した。私もカームダゥン。星付きオーナーを通訳代わりに使ったおばあさんは、意気揚々と我が家に戻り、ヒートプレートを出してきて、「OK?」。思わず「はいっ」。一件落着というわけにはいかない。隣に伺って、「ありがとうございました」。「いぇいぇ、今度は当ホテルにお泊り下さい」。今日2度目の「はいっ」。
 この一件のおかげで、「香格里拉の皆さんの生活を覗きたい」という目的の少しは達成できた。これだけの自然資産、親日的なフレンドシップに出会ったからには、季節を改めて訪れない手はない。